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「サラリーマンの妻に就職しました」現代社会における契約結婚を描いた『逃げるは恥だが役に立つ』(海野つなみ)

仕事がうまくいかない、就職先が決まらない。そんな時、女性なら一瞬でも「結婚に逃げ込みたい…」と考える人も多いのではないだろうか。結婚が決まって「永久就職おめでとう」なんてのは一昔前の一般職の女性がよく言われていたセリフ。

ただ、そんな世間一般の「永久就職」の話ではなく、雇用形態としての結婚を真剣に考えて実践しているのが、本作の「逃げるは恥だが役に立つ」であります。

主人公の森山みくりは大学院を卒業したものの就職活動は全敗。やむなく派遣で働くも派遣切りにあい、現在無職の身。徹子の部屋に出演して切々と正社員採用の厳しさを語り徹子にちくりと言われる様子は、同じような境遇で思わず頷いた人もいただろう。(注:みくりの妄想劇場の一部です)

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バラエティに富んだみくりの妄想劇場「徹子の部屋」出演の巻
海野つなみ『逃げるは恥だが役に立つ』(講談社)より

みくりは、父親の元部下・津崎平匡(ヒラマサ)の自宅の家事代行を引き受けることになる。平匡はみくりの丁寧な仕事ぶりと干渉しない距離感を気に入り、みくりも雇用者に必要とされた嬉しさで良い雇用関係となるが、みくりの実家が田舎へ引越しをすることになり、一人暮らしをする金銭的余裕のないみくりは平匡の仕事を続けることができなくなる。
お互いの現状維持とメリットの多さから、みくりと平匡は、入籍こそしないものの事実婚による「契約結婚」に踏み切ることに…。

2人の考えた契約結婚の中身とは、コレ。

・平匡はみくりの「家事」に対して「給料」を支払う。つまりみくりは表向きは専業主婦だが、その実は雇用主・平匡の従業員=みくりの就職問題をカバーしてみくりに収入が生じる

・平匡は今までの家事代行業者に払っていた負担がなくなる、気の合わないおばちゃんとの厄介さもなくなる

・みくりは結婚に伴う保険や手当が受けられる

・2人で暮らすことで家賃や光熱費の負担は減る(支払いは折半)

・業務時間外は何をしてもOK、逆に業務時間外に妻の役割が必要な時は時間外手当が発生する

・夜の生活はなし

もうね、この主人公ふたりの仕事(結婚生活)のこなし方が、大変真面目で素晴らしいのですよ。

「就職難」「結婚率の低下」「専業主婦の価値」といった現代社会の問題を真正面から書いたロジカルな作品でもありながら、非常にわかりやすく愉快に描いてくれているので男女問わず万人におすすめできます。絵は好みの問題として。

作者の海野つなみ氏はあたまがすごくやわらかいんだろうな。

発想はたしかに奇抜。でも損得勘定の発達している今の子たちなら本当にやってもおかしくないだろうなと思わせるギリギリのリアル感が素晴らしい。

本作のキモは、お互いの利害をフォローするこの契約結婚の面白みと、粛々と仮面夫婦を継続する真面目な2人の現代っ子らしさなんだが、ただ、私がこの作品の好きなところは、「契約結婚」は成立するかという客観的かつ実験的な話と思いきや、当の本人(特に平匡さん)は、やっぱり当然の如くあっさりと恋に落ちてしまうのだ。ちゃんと恋や結婚に対する希望を残しているのがいい。

といってもこの2人は仕事を忘れ、恋に溺れることはない。そんじょそこらのチープな漫画とは違うのよとばかりに、2人の関係はあくまでビジネスライク。
平匡さん曰く、プロの独身とは、ずっと恋をしない・できない人間のことではなく、恋してしまいながらもそれを進展させることをしない人のことだそうだ。そして、平匡さんはプロ中のプロ…なので、けしてみくりとそういう関係に進むことはないと言い切っている。

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プロの独身を自負する津崎平匡
海野つなみ『逃げるは恥だが役に立つ』(講談社)より

結婚生活というのは、夫婦の一代プロジェクト。みくりと平匡のようにミーティング(という名の話し合い)を重ねて策を生み出していくのは、最善に思える。
おそらく作中に出てくる結婚に懐疑的な風見氏のように結婚のメリットばかりを突き詰めると、待っているのは結婚砂漠の虚しさだ。
みくりと平匡は、お互いの利益を受理しながらも、相手に対する気遣いを忘れていない。そんなところが心地いい。

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