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君に届け!この想い!ピュア度100%の大ヒット少女漫画『君に届け』(椎名軽穂) 

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累計発行部数1100万部を突破し、近年では「NANA」に続く圧倒的な大ヒット作品となった「君に届け」。
今時珍しい性欲の匂いが全くしないピュアストーリー。思春期なんてはるか彼方に置いてきたアラサ―の自分でもまんまとハマってしまう魅力を持つ恐ろしい胸キュン少女漫画です。これは確かに売れる。

黒髪ロングの爽子は見た目の陰気さから「貞子」と呼ばれ、孤立した学校生活を送っていた。しかし、クラスの人気者風早翔太はそんな爽子のことも気にかけてくれ、爽子は彼の助けを受けながら一歩を踏み出そうとする。

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はじめて同級生に名前を呼ばれる貞子こと爽子
椎名軽穂『君に届け』(集英社)1巻より

地味な女の子とクラスの人気者の学園ラブストーリー。少女漫画の王道中の王道をあえて今やることが、逆に新鮮。

爽子は最初はクラスから孤立している女子です。しかし彼女は純粋にクラスに溶け込みたいと思い、勇気を持って気持ちを届けようとする。その爽子の惜しまぬ努力を描いたのが、1~2巻に描かれるクラスの女子との友情物語。悪い意味で目立っていた爽子が初めての友情をゆっくりと築き上げる、そのピュアさに涙がこぼれてしまいます。

そう、学校生活において本当に大事なのは恋愛より、友情。このエピソードが多くの読者の涙を誘い、本作品は一気に人気を加速させていきます。

「君に届け」は一見すると、少女の妄想を描いた一般的な少女漫画に見える。「貞子」と名付けられるほど浮いていた少女がクラスの中でも目立つ女子と仲良くなり、果ては人気者風早からも好意を持たれている。これは、誰もが知っているリアルな学校の教室の構図からかけ離れた、いびつな状態。表面だけをみると完全なるファンタジー。

しかし、このファンタジーに説得力を持たせたのが、非常に丁寧な心理描写と特徴的なキャラクターです。

そもそも、風早くんみたいな爽やかな男子なんて実際には絶対にいない。爽子みたいな純粋な女子も絶対にいない。だけどそのウソみたいな設定の中で読者が納得できる描写を作者は細かく描いていて、ちず&あやねとの友情の育みには2冊、そして、爽子が風早くんを「好きだ」と意識するまでには単行本の実に4冊を使っている。

クラスでの自分の位置を理解し自己評価が圧倒的に低い爽子は、自分が好意を持つことのおこがましさを自分自身が気づかない程にわかっている。なので風早くんに対しては「好き」なんて大それた感情以前に、単純に憧れや尊敬の意味での「特別視」をするようになっていきます。4巻目にしてこの「尊敬」から生まれた「好き」に爽子はようやく気づくのだけど、それは爽子自身が成長をした証。そう、恋愛って少しでも自分に自信がないとできないものなんだよね。

さらにこの作品のすごいところは、脇役達も自分の想いをちゃんと相手に伝えていること。他人に気持ちを伝える「勇気」、思春期の男女にとってこれほどハードルの高いものはありません。その重さと価値を作者はきちんと書いていて、例え残念な結果になろうとも救いがある終わり方をしているんだよね。ほんとに爽やか。


ブレないしっかりとしたテーマを持ちながらも、作風自体は非常に明るいタッチ。
それにしてもこの作品の登場人物たちは、みんな好感度がずば抜けて高い。
特に主役の爽子と風早くんのキャラクターは実にユニーク。「貞子」というあだ名の陰気で怖い見た目なヒロイン爽子。一方、クラスの人気者で純度100%のくったくのない爽やかさを持つイケメン風早くん。風早くんはいわゆる外見だけじゃなくちゃんと中身もいい、今風のイケメン。

少女漫画では、ヒロインに対する男の愛情表現がどれだけ女性読者をキュンとさせるかが肝なので(こんな男性は絶対にいない、という意見は重々承知の上で)、風早のように思春期のウブな男の子が精一杯がんばっているのは、女子目線で見ると非常に好感度が高い。貞子→風早の描写より風早→貞子の描写の方が、ニヤニヤキュンキュンなのです。椎名先生はわかってる。

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最大の山場で作者の産休突入で焦らすというまさかの展開に涙した日々、しかしもつれあった2人の思いが届く瞬間は待っていただけあって完璧なクライマックスです。願わくはこのドキドキがずっと続きますように。

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